長崎地方裁判所武生水支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人金性千を懲役壱年六月に処し
被告人朴今順を懲役六月に処し
被告人吉正秀を懲役壱年弐月に処し
被告人趙敏子を懲役四月に処し
被告人安相喜を懲役壱年六月に処する。
各被告人に対し未決勾留日数中参拾日をそれぞれ右本刑に算入する。
別紙物件目録記載の貨物中一号乃至一八四号の貨物は被告人吉正秀から、一八五号乃至二三二号の貨物は被告人金性千から、二四七号乃至二五九号の貨物並に二三三号乃至二四六号物件の換価代金四万円及び船舶松吉丸は被告人安相喜から、それぞれ之を没収する。
被告人朴今順に対する公訴事実中関税法違反の点及び被告人安相喜に対する公訴事実中同被告人が朴今順の貨物密輸出行為を容易ならしめて之を幇助したという点はいづれも無罪。
訴訟費用中証人小川光、同西村隆に各支給したものは被告人安相喜の負担とし鑑定人古賀敏彦に支給したものは被告人金性千、吉正秀、安相喜の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
第一、被告人金性千、同吉正秀、同安相喜は、いづれも税関の免許を受けないで貨物を朝鮮に密輸出しようと企て、昭和二十八年一月八日から翌九日頃までの間に福岡市大浜海岸において、被告人金性千は別紙目録記載の一八五号から二三二号までの貨物(此の鑑定原価八七〇、九〇〇円)被告人吉正秀は同一号から一八四号までの貨物(此の鑑定原価八八二、〇〇七円)被告人安相喜は同二三三号から二五九号までの貨物(此の鑑定原価六五、四八〇円)を、それぞれ被告人安相喜の所有にかかる朝鮮向け発動機船松吉丸(約十屯、二十五馬力)に積載した上同月十一日午前十時頃同所から朝鮮向け出帆して貨物の密輸出を遂げ
第二、被告人安相喜は被告人金性千、同吉正秀が右第一記載の通り朝鮮向け貨物の密輸出をした際その情を知りながら同人等の前記貨物を自己の運転する右松吉丸に積載することを許容し以て同人等の右第一記載の貨物密輸出行為を容易ならしめて之を幇助し
第三、被告人金性千、同朴今順、同吉正秀、同趙敏子は、いづれも朝鮮に国籍を有する外国人であるが、出入国管理令第二十五条第二項の規定に違反して朝鮮に赴く意図をもつて昭和二十八年一月十一日午前八時頃福岡市博多港から壱岐経由厳原行の定期連絡船大衆丸に乗船して同日正午頃壱岐郡田河町芦辺に上陸し、同所から右第一記載の朝鮮向け密航船松吉丸に乗船すべく同町俵屋旅館に待機して、以て不法出国を企て
第四、被告人金性千は昭和二十八年一月十三日午後零時三十分頃壱岐郡田河町俵屋旅館こと西くら方において壱岐地区警察署勤務巡査福井静夫がその職務の執行にあたり外国人登録証明書の呈示を求めた場合に他人名義である朴慶伊名義の外国人登録証明書(大阪市大正区長発行の第四三二二八号)を呈示して行使した
ものである。
(証拠の標目)(省略)
なお被告人は朝鮮に行く目的ではなかつたと弁疏するけれども(イ)白昼且つ海上保安部から展望できる場所で積荷をし且つ出帆したことは取締官憲の虚を衝く手段に出たものに過ぎないと認められ(ロ)鶏知に住む西村隆に届けるための荷物も積込んでいたことは朝鮮に往く途中鶏知に立寄つて荷揚げすることもできるし朝鮮から帰つてから届けることもできるのだから朝鮮行きでなかつたという弁解の理由にはならない(ハ)安相喜が積んでいた果物、野菜其他の食料品も物価の高い朝鮮向け密輸出の対象として好適のものであることは公知の事実であるから之れも理由にはならない。
(法令の適用)
被告人金性千、同吉正秀、同安相喜の各判示第一の所為は関税法第七十六条第一項罰金等臨時措置法第二条に該当し、被告人安相喜の判示第二の所為は関税法第七十六条第一項罰金等臨時措置法第二条、刑法第六十二条に該当し、被告人金性千、同朴今順、同吉正秀、同趙敏子の各判示第三の所為は出入国管理令第二十五条第二項、第七十一条罰金等臨時措置法第二条に該当し、被告人金性千の判示第四の所為は外国人登録法第十三条第二項、第十八条第九号罰金等臨時措置法第二条に該当する。よつて所定刑中いづれも懲役刑を選択し、被告人金性千、同吉正秀、同安相喜の以上の各所為はいづれも刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十七条、第十条により最も重い関税法違反の罪にそれぞれ法定の加重をし安相喜の関税法違反幇助の罪は従犯であるから刑法第六十三条によつて法律上の減軽をした上で、それぞれその所定刑期範囲内において主文記載の通り量刑処断し、刑法第二十一条を適用していづれも未決勾留日数中三十日を本刑に算入するものとし、別紙目録記載の物件中一八五号乃至二三二号の貨物は金性千の、一号乃至一八四号の貨物は吉正秀の、二四七号乃至二五九号の貨物は安相喜の各所有に係るものでいづれも関税法第七十六条の犯罪に係る貨物であり、船舶松吉丸は同犯罪の用に供した船舶で安相喜の所有に係るものであるからいづれも関税法第八十三条一項により被告人金性千、吉正秀、安相喜からそれぞれ之を没収し金四万円は被告人安相喜の関税法第七十六条の犯罪に係る同被告人所有の別紙目録記載二三三号乃至二四六号貨物の換価代金(司法警察員作成の換価処分書によつて之を認める)であるから同法第八十三条第一項により被告人安相喜から之を没収し訴訟費用の負担について刑事訴訟法第百八十一条に則つて主文掲記の通りそれぞれ之を負担せしめる。
なお被告人朴今順に対する公訴事実中同被告人が別紙目録記載物件中の一八五号乃至二三二号の貨物を密輸出したとの点は該貨物が同被告人と被告人金性千との共有係にるものとして起訴せられたものであるが、該貨物は被告人金性千の単独所有と認むべくして、朴今順との共有と認むべき確証なく、又被告人安相喜に対する公訴事実中同被告人が朴今順の貨物密輸出行為を容易ならしめて之を幇助したとの点は右説示の通り朴今順の貨物密輸出行為なるものはなかつたと認めるので、いづれも犯罪の証明がないことに帰する。仍て以上の点には刑事訴訟法第三百三十六条を適用して無罪の言渡をする。
仍て主文の通り判決した。(昭和二八年三月二〇日長崎地方裁判所武生水支部)
(別紙目録は省略する。)